川崎市麻生区栗木の住宅街に、戦時中につくられた防空壕が今も残っています。
その中で株式会社熱源が栽培しているのが肉厚でぷりぷり、コリコリとした食感が特徴の「防空壕きくらげ」です。
夏でもひんやりとした防空壕の環境を生かし、一年を通して栽培されています。
戦時中につくられた防空壕が、なぜきくらげの栽培所になったのでしょうか。
今回は、実際に防空壕の中を見せていただきながら、「防空壕きくらげ」が生まれた背景や栽培の様子についてお話を伺いました。

土地を購入して発見!戦時中につくられた防空壕
この防空壕が発見されたのは2013年。現在の土地を購入した後、敷地内に防空壕があることがわかったそうです。

発見当時は入口のほとんどが土に埋まり、上部がわずかに開いているだけ。その先には、何もない空間が広がっていました。
防空壕は入口の幅が約3m、高さ約2.5m、奥行き約13m。現在は崩落を防ぐため一部にモルタルが吹き付けられていますが、奥へ進むと当時の姿を残す部分を見ることができます。
この防空壕がつくられたのは、太平洋戦争末期の1944(昭和19)年8月ごろとされています。
当時、この地域では6つのお寺に合わせて約150人の子どもたちが疎開しており、そのうち39人が常念寺で生活していました。この防空壕は、常念寺に疎開していた子どもたちのためにつくられたものと伝えられています。
現在、防空壕の近くは子どもたちの通学路になっています。少し高い場所にある防空壕を、通りかかった子どもたちが「何だろう?」と興味深そうに見上げることもあるそうです。
夏でもひんやり!防空壕の環境を生かして栽培
実際に防空壕の中へ入ってみると、外との温度差に驚きました。取材した日の内部の気温は23℃。暑い時期でも26℃ほどまでしか上がらず、冬は16℃ほどになるそうです。
中には、きくらげを育てる菌床がずらり。きくらげの生育に適した温度は20〜25℃ほどのため、夏場は防空壕の涼しい環境が栽培に適しています。

一方、冬になると防空壕内の温度は生育に適した温度を下回ります。そこで活用されているのが、株式会社熱源がもともと手がけてきたヒーター開発の技術です。
栽培棚の下にヒーターを設置して防空壕内を温めることで、冬でもきくらげが育つ環境を維持。本来は夏が栽培の中心となるきくらげを、一年を通して収穫できるようになりました。
また、きくらげの生育には酸素も必要なため、外から空気を取り込みながら換気をおこない、温度や湿度などの環境を管理しています。
切れ込みからニョキニョキ!きくらげが育つまで
防空壕の中にずらりと並んでいるのは、きくらげの菌床です。菌床にいくつか切れ込みを入れると、そこからきくらげがニョキニョキと顔を出します。

収穫できるようになるまで、およそ3週間〜1か月。一度収穫して終わりではなく、ひとつの菌床から3〜4回ほど繰り返し収穫し、約2か月を目安に新しい菌床へ交換します。
成長したきくらげからは胞子が飛び、換気扇が真っ白になることもあるのだとか。胞子が多く舞う時には、マスクを着けて作業するそうです。
防空壕の中でゆっくりと時間をかけ、たっぷりと水分を蓄えながら育つことで、肉厚なきくらげに。ぷりぷり、コリコリとした食感が「防空壕きくらげ」の特徴です。
防空壕の環境を再現!BOXカルバートで栽培
きくらげの生産量を増やすために導入されたのが、コンクリート製の「BOXカルバート」です。

防空壕のような環境を人工的につくり、もともと手がけてきたヒーター開発の技術を組み合わせることで、温度や湿度を調整しながらきくらげを栽培できるようになりました。
この仕組みは「コンクリート製栽培システム」として開発され、2019(令和元)年10月にシステム特許(特許第6467092号)を取得しています。
コンクリート製の設備は外の気候の影響を受けにくく、温度や湿度を調整しやすいのが特徴。寒冷地や豪雪地帯でも農産物を栽培できるシステムとして開発されています。
偶然見つかった防空壕で始まったきくらげ栽培。その環境と、もともと持っていたヒーターの技術を組み合わせることで、新たな栽培システムへと発展していました。
ぷりぷり食感を楽しむなら「生きくらげ」
「防空壕きくらげ」には、生きくらげと乾燥きくらげがあります。
中でも、生きくらげならではの肉厚でぷりぷり、コリコリとした食感はぜひ味わってほしいところです。

おすすめの食べ方は、30秒ほどさっと下茹でして、わさび醤油やポン酢でいただく方法。私もわさび醤油でいただいてみました。
生きくらげを食べる機会がほとんどなかった私。口に入れると、まずその肉厚さと、ぷりぷり、コリコリとした歯ごたえにびっくり!噛むほどに楽しめる食感で、生きくらげのおいしさに感動しました。

ごま油で卵と一緒に炒める「きくらげ卵」もおすすめだそうです。
防空壕の奥では黄色い「タモギダケ」も栽培中!
きくらげの菌床が並ぶ場所からさらに奥へ進むと、今度は鮮やかな黄色いきのこを発見しました。

こちらは「タモギダケ」というきのこ。β-グルカンやエルゴチオネインなどの成分を含み、牡蠣を思わせるような独特の味や香りが特徴だそうです。
タモギダケの栽培は、まだまだ未知数な部分が多いのだとか。思うように育たないこともある「気まぐれなきのこ」に翻弄されながらも、安定して生産できるよう試行錯誤を重ねています。
収穫したタモギダケはパウダーにも加工されており、味噌汁や炒め物、パスタなど、普段の料理に加えて楽しむことができます。
防空壕の中では、きくらげだけでなく、新たなきのこの栽培への挑戦も続いていました。
「防空壕きくらげ」はどこで買える?
栽培所の前には自動販売機が設置されていて、「防空壕きくらげ」を購入することができます。

生きくらげは70g入り350円(税込)、乾燥きくらげは10g入り1,000円(税込)です。
また、麻生区黒川にあるJAの農産物直売所「セレサモス」でも販売されています。先ほど紹介したタモギダケも並び、入荷するとすぐ売り切れてしまうこともあるそうです。
そのほか、オンラインの「防空壕きくらげストア」でも購入できます。
郵便局の「ふるさと小包」では生きくらげと乾燥きくらげを取り寄せることができ、川崎市内の郵便局窓口では乾燥きくらげが販売されています。
以前は地元での販売が中心でしたが、テレビで紹介されたことをきっかけに全国から注文が入るようになったのだとか。東京のマルシェでも「テレビで見た!」と声をかけられることがあるそうです。
「防空壕きくらげ」から歴史を次の世代へ
「最近の子どもたちは、防空壕のことを知らない子が多い。忘れないように伝えていってほしい」
そんな声を地域の方からかけられることもあるそうです。
この防空壕を維持し、残していきたいと考えています。そして「防空壕きくらげ」を手に取ってもらうことが、防空壕の存在やその歴史を知るきっかけになればと話してくださいました。

実際に防空壕の照明を落としていただくと、中はほとんど光のない真っ暗な空間に。暗闇の中に立つことで、戦時中、この場所で過ごした子どもたちに思いを馳せることができました。
約80年前、子どもたちを守るためにつくられた防空壕。現在はその中できくらげが育ち、地域の食卓へと届けられています。
「防空壕きくらげ」を囲みながら、家族で平和や今ある暮らしについて話す。そんなきっかけにもなってほしいと考えているそうです。
麻生区で育った、ちょっと珍しい「防空壕きくらげ」。見かけた際には、ぷりぷり、コリコリとした食感とともに、その名前の背景にある歴史にも触れてみてはいかがでしょうか。
株式会社熱源 防空壕きくらげ
住所:神奈川県川崎市麻生区栗木227(栽培所・自動販売機)
アクセス:小田急多摩線「栗平駅」から徒歩約8分
オンラインショップ:https://boukuugoukikurage.stores.jp/
直売所:JAセレサ川崎 ファーマーズマーケット セレサモス麻生店
住所:神奈川県川崎市麻生区黒川172
アクセス:小田急多摩線「黒川駅」から徒歩約7分
TEL:044-989-5311
定休日:毎週水曜日・年末年始
駐車場:あり


















